秘密の地図を描こう
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アスランがプラントに入国した。その情報をつかんだ瞬間、ニコルは頭を抱えたくなる。
「何でこの時期に……」
余計なことを、と思わず口にしてしまった。
「ともかく、議長とクルーゼ隊長に連絡を取らないと」
それから、自分達としてどう行動するかを考えなければいけないのではないか。
「こうなると、あの二人も巻き込むべきでしょうね」
あぁ、面倒くさい……と呟く。
「彼がどうしてきたのか。今、どんな考え方をしているのかは、ディアッカあたりに確認してもらいましょう」
それよりも、とニコルは続ける。
「オーブで何が起きているのか。確実に調べ上げないとだめでしょうね」
カガリのそばにいた彼が一人でプラントに来た。それは、あの国の内部で何か厄介なことが起きている証拠ではないか。
それを確認しなければ、後々、厄介なことになるような気がする。
その結果、キラが悲しむだけではなくプラントにも大きな影響を及ぼすことになりかねない。
「ミゲルにも声をかけておきましょう」
彼は最前線にいる。それでも、地球上にいるから自分とはベル方面で情報を耳にすることがあるのではないか。そう考えたのだ。
「アスランのことも教えないといけないですしね」
自問自答を繰り返しながら次々となすべきことを決めていく。
「……後で、キラとお茶をしたいですねぇ」
そのくらいのご褒美はあってもいいだろう。自分でそう結論を出すと、ニコルは優先順位順に仕事を片付け始めた。
「どうやら、また、お引っ越しをしなければいけないようですね」
シェルターの中にマルキオの明るい声が響く。
「偶然とはいえ、カナード様がいてくださってよかったです。あの方はお強い」
だから、大丈夫ですよ? と彼は微笑んでいる。
「しかし、何故、急に……」
マリューが小さな声でそう呟くのが聞こえた。
「オーブが完全にセイランに掌握された、と言うことだろう。ここ数日、カガリと連絡が取れなかったのも、それ以前に、アスランがプラントへ行かされたのも、その証拠だろうな」
彼女から相談相手を奪う目的があったのではないか。バルトフェルドがそう説明してくれる。
「キサカ様が姿をお見せにならなくなったのも、その一環なのですね?」
ラクスはこう問いかけた。
「おそらくは、だがな」
可能性は否定できないだろう。そう言ってバルトフェルドはうなずく。
「言ってはなんだが……ここにキラがいなかったことはよかったかもしれないな」
ここにいれば彼自身がカガリを利用する道具にされていたかもしれない。そうでなかったとしても、戦場に出ることを強要されるだろう。
「不本意だが、プラントであれば今しばらく猶予が与えられるだろうからね」
彼がどうするか。その選択権は彼にある。それは確かに重要だろう。
「後は、子供達をどうするか、だが……」
バルトフェルドがそう言ったときだ。
「今度のお家は大きなお船ですよ」
マルキオがそう言ったのが聞こえる。
「メガフロートが完成したらしいな」
ならば大丈夫だろう。メガフロートはジャンク屋ギルドの所有になるはず。彼らが確実に守るはずだ。
「では、後決めなければいけないのは、わたくし達がどうするか……ですね」
それが一番難しい。しかし、だ。
「キラは必ず戻ってきます。この戦争を終わらせるために」
自分にはわかる、とラクスは言う。
「そのためにも、カガリには自由を取り戻してもらわなければいけません」
そして、自分達もいつでも彼に合流できるようにしなければいけないだろう。
「なら、答えは簡単だろう?」
バルトフェルドが即座に口を開く。
「アークエンジェルの発進準備をしますね」
マリューもまたこう言ってうなずいてみせる。
「お願いします」
今はキラを待つのが自分の役目だ。その後のことは彼の顔を見てから決めればいい。ラクスはそう自分に言い聞かせていた。